急がば回りこんでドロップキック

後藤あいといいます。

GWにおもう

下北沢。今時めずらしい全席喫煙で、ここぞとばかりにタバコをくゆらすミドルたちで満席の純喫茶にいる。下北沢ではお馴染みのお洒落とだらしなさが紙一重の若者は見当たらない。

精神病と診断されて逃げるように会社を去ってから、もうすぐ1年になる。電車を下北沢で降りたのは、当時のことを思い出したからだ。

今まで、当時のことを思い出そうとしてもうまく思い出せず、自我と別のところで記憶の引き出しをロックしちゃってるんだな、我ながらよくできたアタマだな、と感心していた。でも、ふと、胃の内容物と肺と脳みそがごちゃまぜになった。快速急行で新百合ケ丘からノンストップで換気が上手くできていなかったせいかもしれない。当時も通勤途中に下北あたりでその現象が起きて、そのまま家に引き返したこともあったっけ。でもなんであんなに辛かったんだろう。今なんでこんなに辛いんだろう。

この1年、お医者さんに言われたように薬を飲みながら、刺激の少ないできるだけ穏やかな生活を意識して送ってきた。完全なる後づけだけど、彼氏を作らなかったのだってこれがあったからだとさえ思う。でも、私はいつ彼氏を作れるようになるのだろう。たくさん迷惑をかけて会社を辞めて、毎日脳みそが溶けるくらい睡眠を取る時間ができたけど、肝心の中身はあの頃と何も変わっていないじゃないか。

会社を辞めて好きな時間に起きて好きな時間に寝ることが幸せだと信じていたけど違った。幸せになりたい。幸せにしてほしい。もういやだ。これって病気のせいじゃないよねえ。

BECKSの3倍はするアイスコーヒーを日本酒のごとくちびちびすする。もちろん、私なんかに味の違いなど分かるわけない。焦りのような、絶望のようなものを感じながらいると、注文する前に出された水に入っていた氷がコロンと音を立てて溶けた。趣深いと感じる心さえ失っている。もしかして後退。