急がば回りこんでドロップキック

後藤あいといいます。

架空の彼氏

3ヶ月前、夏休み明けに集まった時には、夏休みの思い出をそれぞれひとこと言うという時間があった。

近所のコミュニティみたいな感じで、26の私が一番若く、老人ホームから来ている人もいる。「読書会」という名のもとに毎月集まっては、近況を報告したり、悩みを相談し合ったりするのだ。

その3ヶ月前の会で、コモディイイダか西友の2階で売っていそうなチュニックを着たおばさんが「休みで旦那が1日中家にいたので辛かった」と言っていて、私は女性陣のうるおいのない笑い声と、男性陣の憎悪と退屈を隠し持った「ははは」を聞いた。

そこから、夏の思い出を語るということに加えて、既婚女性の場合であれば必ず「旦那が家にいて辛い」と言うべし、という決まりができたようだった。

なーんか、嫌だなあ。。と思って、私の番が回ってきたら、私は男がそばにいたら嬉しいけどね、と言おうと決めた。だってそうじゃん。毎日、起きてから寝るまで1人でいてみてくださいよ、って感じだ。弱々しくなった男性陣の先頭を切る私を想像したりもした。

「最近彼氏ができたんですけど、一緒にいられることが嬉しくてたまらなくて。みなさんとちょっと違うんですけど。」

我ながら、気の利いたコメントだと思った。

彼氏はできていないので、ちょっと嘘だけど。言葉を重ねずに、批判と賞賛とユーモアを詰め込んで、笑い待ちまでする余裕もあった。やっぱりこれを言った後は、会場は換気したみたいに悪い埃が消え、明るくなったように感じて、それでも自分は、周りから見たら、まだ若いのだ、と思い知る。

そうして私は、愛に満ちた彼氏持ちの女になった。そして、その後の影響がでかすぎた。

会への欠席を申し入れると、彼とデート?と聞かれたり、家から出ずに集合ポストに新聞を溜めちゃうと、後日会ったとき、彼のとこにいたの?と質問されたりするようになった。コンビニに行くのも面倒になって最近ついぞ痩せたのも、彼のおかげ。実家に帰るのも、彼と一緒。

場の空気を盛り上げるために「盛った」。でも、私が今いる場所は、読書会の、あの夏の終わりの読書会じゃなくて、うるおいのない女と、憎悪と退屈を隠し持った男がいる場所と地続きになっているんだった。本にもできないノンフィクションの、ノン彼氏の、リアルガチの、面倒で、つまんない、

今から今月の会に行く。この前別れたんですよね、って言おうと思っている。

すべては睡眠のために

寝る薬が効かなくなってきた。

グーグルを検索すると出てくる、こまめに打たれたh2タグと、赤く染まった巨大文字、それからストックフォトとかパブリックドメインの写真は、筆者が責任回避しているように思えてしまう。

デザインによってわざと信ぴょう性を失わせているようなそれらのページを見ると、

私には眠剤への耐性がついている、または眠剤への依存が始まっている、もしくはその両方であるようでした。

22時になったら灰皿から吸殻を捨て、PCを眠らせ、AndroidiPhoneの通知音を消す。

例外な日もあるけど、ていうか例外な日ばかりだけど、寝る前のカモミールティーを飲むのととラベンダー2滴マジョラム1滴を綺麗に畳んだティッシュペーパーに落とすのは毎日している。

23時半になったら眠剤を3種類飲んで布団に入り、テレビのオンタイマーと大学の入学祝いに母ちゃんの友達にもらった電波時計の目覚ましと携帯のアラームをセットして、AmazonMusicに入っている睡眠導入系の音楽をかけて、目を閉じる。

3から4曲目くらいで寝落ちするから、0時くらいには寝ている。

もしそのアルバムを聴き終わったらもう3種類。

また聴き終わったら3種類。

3週目を聴き終わったら、無感情に布団を剥ぎ、暗闇にiPhoneを下から上にスワイプしてライトをつけながら我が家の喫煙所(ユニットバス)まで空のペットボトルや脱いだ服などを踏みつけながら歩き、タバコを吸う。

吸い終わったらライトを消して部屋の電気をつける。

22時の明かり同じだからホッとする。眠くないのに寝ることないじゃんね、と近所迷惑ギリギリ(たぶん)の独り言を言う。

アラームはかける時よりも、消す時の方が面倒だ。

食べるもの、飲むもの、運動、仕事、人間の活動のすべては心地よく眠るためであって、心地よく眠れない私は、食べるもの、飲むもの、運動、仕事に心を配ってやらなきゃいかんのかもしれん。すべては、寝るために!

ALL you need is 睡眠

ビートルズもナットク!

私はタバコを吸う。

私はタバコを吸う。

ブルーライトカットしたのかしらと思うくらい黄色くなった壁に囲まれた、硬い硬いユニットバスのへりに腰かけて、辞めなきゃ辞めなきゃと思いながら吸うのだから、世話ない。まじで。

私を綺麗にしてくれるはずであった石鹸も、嫌なものを洗い流すためにそこに置かれたはずであった便器も、今は水分を失い黄色みがかった茶色をしている。タバコなど吸っていられないような吐気がした時、私はトイレにも、お風呂にも入ることができないのだ。そこに置いておいた歯ブラシは、徐々に褐色を帯びていくのが目に入るのが嫌で、この前毛が黒いやつに変えた。

喫煙所を探し回って駅の端まで歩くのがしょうがない。本屋にいる時、特にOLさんが好きそうなコスメとかファッション系とかのコーナーに立った時、オーラのようにまとっているタバコの匂いが、しょうがない。全面禁煙の洒落たダイナーに連れてきてもらった時、会話をこっそり抜け出して外の喫煙コーナーで一服して、バカらしいなと思いながら孤高を味わっている自分が、しょうがない。

タバコはカッコイイ。そのウソは多くの人が暴き、とっくに廃れている。それを頑なに信じている人間など、実は、もう、ハチ公前の喫煙所にも、片田舎の工事現場にも、映画の中でさえ、一人としていないんですよ。喫煙者は、一人ももれなく、自分が喫煙者であることを恥じて、惨めな思いを抱きながら、辞めた後に待っている人生を頭の端に置きながら、行き場のないセロファンとアルミ紙をポケット、もしくはカバンの底に突っ込んで、今日もタバコに火をつけるんですよ。ちょっとばかし息が苦しくても、口の中がドブみたいにネチョネチョして臭くても、百害あって一利なしと言われても、禁煙宣言を受理してくれた友人を裏切ってでも。いっそのこと、病気にでもなってくれれば?1000円に値上げすれば?いつ辞めるの、イマデショ?

まあその半分以上が無意識なんだろうけど、ストレスからの解放とか、コミュニケーションの手段とかにタバコを使うこともある。タバコを吸わない人は、ストレスを解消したりコミュニケーションを取ったりするのにタバコを使う必要がない。どうやって休憩すればいいんだっけ?どうやったらタバコなしで酒の席が楽しめるんだっけ?タバコは思考をもダメにしてしまう。もってるのにもってない。ストレスから解放されるはずなのにストレス。なぞなぞかよ!

謎、まじで謎 → お得意の思考停止

何のために働いているのか

コンビニで税金を支払う時、確認ボタンを押すために伸ばした手が重たかった。

この重さは収入の増加に応じて累進するというのは、社会科の授業で既に知るところであったが、となると、この重さに耐えうるだけの筋肉を、鍛えなければいかん。

かといって本物の筋肉みたいにチマチマと手間をかけてやりたい訳ではなく、ドカンと一発、ならそれはそれで対応しうるだけの力、というか、差し押さえられたら嫌だし、どうせ払うんだけど。

朝起きたら身体がムキムキデラデラになっていた、なんてこともあるかもしれない。朝起きたらタバコを吸いたくなくなっているかもしれない。

私は一体、何のために働いているのか。ただのボードゲームに過ぎないのに。