急がば回りこんでドロップキック

後藤あいといいます。

20170806

実家で暮らすのが嫌になった。

だから、ちょっと、10日間くらい、東京の、私の稼ぎではきっと住めない場所にウィークリーマンションを借りて、暮らすことにした。

逃避行といえば夏らしくって粋なのだけど、逃げるだけです。

見ないふりできなくなった自意識
かといってはっきりしない
縛られている感じがして
監視されてる感じがして
我慢ならなくなって振り返ると目線を逸らされて
私以外のせいにすれば楽でした
善意がイヤらしい
9年の一人暮らしで蓄えたわがままですか
私は一体何に苦しんでいるのですか

家族というものが分からなくなったと母親に言ったら、最近眠れないのも食べられないのも私たちのせいなのかと思っていたんだと泣きながら、一人になって考えてみなよと返された。この時母親は、考えすぎる私の欠点を、まるっと受け止めた。明け方二人で泣いて、遠くで父親がテレビの電源を入れた音が聞こえたんだ。ああ、父ちゃんってこんな早く起きるんだなって。

逃げる先が東京というのも、いささか語彙なし女風。

今は、青ネギを切った包丁を上向きに持ち替えることをしなかった自分が、ただ新幹線に乗っているだけだ。

父はAVを見てた。

父の寝室(リビング)からパシャパシャスマホで写真撮る音が聞こえてきて、たまに連写とかしてて、鳴り止んだと思ったらまたパシャパシャし出して。

なにをそんな撮ることあるねんと偽関西弁でつぶやき&好奇心沸々……。

歯ぎしり対策のマウスピースを洗うついでに、ちょろりと部屋を覗いてみる。ふすまは全開だ!

父はAVを見てた。

おいおい父…デジタルとアナログの狭間で不器用に生きてる父…どんな顔して撮ってんねんと再び偽関西弁…どういう感情で後から見んねんと再び…

私には彼の血が半分流れています。

悲しいぜ?

治安の悪い相席居酒屋でキス

金曜の夜、大学の同期と新宿のゴジラの近くで相席居酒屋を発見したので、入った。

席に着いてから11分経って出されたカシスウーロンは、呼気検査をパスしそうな濃度でもってグラスに汗をかかせる。座った長椅子は、座面の合成皮革が破れて、その不誠実さに下でスタンバってたウレタンまでが飽きれて散って、木板がその穴を埋める。私は、履いていたストッキングを伝線させて、なんと大変なところに入ってしまったと思う。

思うだけにして、男を待った。

和紙かな布かなって感じのパーテーションの向こうでは、力量と熱量が足りない男女によって異様な盛り下がりをみせている。ただ、パーテーションに防音・耐熱加工がされてるかもしれないから、本当のところは分からなかった。

金曜、新宿、客は男を待つ私たちを含めて2組。

売れない居酒屋が安易に「相席居酒屋にしたら流行るんじゃない?」って感がむき出しになっていて、それでもなお流行っていないのを見ると、ビジネスの単純な仕組みにぐったりせざるを得ない。

まあ、店の真価ってトイレで決まるもんね、よし、と腰をあげたら男が、来た。

男が来たので、店のルールにしたがって人数分のおつまみを頼んだが、彼らの飲み物が来て乾杯しても、自己紹介が済んでも、自称お笑い担当によってそれ以外の人々が笑う担当に配置させられても、それは強制的な人事命令だ、不当、と訝しんでも、おつまみが来ることはなかった。

男が来ておつまみが来ない

自由律の句を詠んだところで、そうそう、トイレトイレ、と席を立つ。

トイレに行くと、パーテーションの奥で席を持っていたスーツの男と鉢合わせた。男女共同のトイレ。どうぞどうぞと譲り譲られ、お先にと入る。プラスチックの、黒沢かずこが乗ったら破れてしまいそうな便器。タンクにはうっすら埃を被ったプラスチックの草が飾ってあった。待ち人あれりと、ぐったりしている間も無く出た。そんなことより彼らのテーブルにはおつまみ来たんかいな。

スーツの男は律儀に待っていた。

扉を開けて待っていたのに、入る気配を見せない。

善意を無下にされ腹が立ち、諦めて席戻ろうとすると行く手を塞がれた。

抱き寄せられて、キスしていいかと聞く。

だめだめーと笑顔で言う。

そうすると、腕を掴まれトイレに連れ込まれて、無許可のままスーツの男が私にキスをした。

俺といる方が楽しいでしょう?

向こうなんて放って俺と楽しもう?

向こうが楽しいわけではなかったが、かといってこっちの方が楽しいかというと誤答。この時においては、向こうの方が胸をドキドキさせてくれるくらいの楽しい場所に思えた。

嫌と何度か言って、するりと腕を抜けたら、ああ、そう、またね、と彼が言った。

席に戻った後、しばらくして彼がトイレから出て来るのを気配で感じて、楽しく見える風に笑う。いや本当に楽しんで心から笑っていたかもしれない。

そうそう、その姿をついぞお目にかかることのなかったおつまみは、会計伝票の上の文字としてようやく捉えることができた。

終電もなかったので、そのあとみんなでカラオケに行ったが、LINEを交換する必要性を誰もが見いだすことのないまま、別会計をして解散。

またね?どこかで再び会えたら運命?

残念、顔はもう忘れた。

己を知れ?

やりたいことを聞かれてニヤニヤして、夢はと聞かれてまたニヤニヤして、晩ご飯何がいいか聞かれて目前に見える食材を指して、自室に帰れば「自分のことが分からなくなってしまったあああ!一体私は何が食べたいんだあああ!何者にもなれずにこのまま死んでいくんだあああ!」と日記に殴り書く。

私はフリーランスとして仕事をしてるんだけど、
それでもありがたいことに仕事はあって、
編集の力を頼りに入稿する毎日。
スキルや熱の低さがバレて、仕事が減った。
当然の報いだったが、改めることもなかった。

仕事が減って、
ただそれだけの事実で、
私はこの仕事向いていないと思った。
そして自分を守るように、
私はこの仕事好きじゃないんだと思うようになった。

暇だったのも大いにあろうが、諸悪の根源は自分がどういう人間で、どういう価値観の中で生きているのかが分からないことだということに気づき(うすうすは感づいていたような…)、ここが解ければ、私の本当にやりたい仕事がみつかると思った。

長所だってないはずないんだ、たぶん。

苦しくて面倒な自己対話をショートカットできる診断をみつけた。

16Personalities
https://www.16personalities.com/ja

「16Personalities」とは、NERIS Analytics Limitedっていうイングランドとウェールズにある会社が運営しているコンテンツで、MBTIの性格検査をもとに作られているやつらしい。TwitterとかFacebookとかでちょっと前に流行っていたやつ。

70億人をたった16種類にわけるな!っと、今までこういった類の診断を毛嫌いしていたが、ガチガチに凝っちゃってる私には、10分の質問に答えるだけが精一杯だったので、セニハラ〜という感じ。

受けてみて、ついこのあいだまでへ、言葉に出来なかった自分の心(別説:言葉にしようとする体力と忍耐がなかっただけ)を見事に示してくれた。嬉しかった。

さらに「文字を操る才能」とか「文章の才能」とかの診断が出て、どうやら今の仕事、向いているらしいということを知る。

そして、とり急ぎ今は、この診断の信ぴょう性を考えることは放棄して、私にあるらしい「文字を操る才能」を信じることにした。

信じることにしたら、自分の中に自信(に似たもの、かもしれない)を見つけた。

他のものを信じたら、自分を信じることができるって、なんだか普遍の法則を悟ってしまった感じがある。まあ、吹けばまで飛んでくような自信だけど、当分を生きるのに十分すぎるほどであった。

書けるようになりました。
さすがだね、頼りになるねって褒められました。
生産性もめちゃ上がりました。
早起きできるようになりました。

そして、仕事がなんだか面白くないのは、自分が面白くない人間だからだったようだと気づきました。

見つめないで、耐えないで、諦めて、赤入れされたらふてくされて、言われたこともできなくて、辛い、無理だ、向いてません、辞めますって、ばか。

あーたしかになあ、って自分の心を分かっただけで
こんなにも嬉しいと楽しいと大好きがもたらされるって。

麻薬?本当の自信?そんなのは取り急ぎ、いいじゃない。

明日も早く起きたい。仕事したい。書きたい。それだけで充分。