急がば回りこんでドロップキック

後藤あいといいます。

散歩

夜、散歩していたらデカめの公園に着いた。

ひとりで生活するって、最高!
人と暮らすって、面倒!

と思っていたが、割と大変で、ふーっと孤独感がやってくる。

と、一人暮らししていたころには、実家で暮らしているころには気づかなかった、至極単純なことを仰々しく発見した。論理的思考の癖と冷静さが当時身についていればとっくに気づいていたのだろうけど、でも気づいたって心が納得できなきゃやっぱりモヤモヤしたままだったのだなと思い直し、いやでも論理的思考ってそういうことだろ、ってどうでもいいことを考えた。

今日はまつエクしてくれた人(アイリストさんというらしいですね)と暑さがやばい旨を話しただけで、ずっとひとりだった。

それでも、空の缶コーヒーを持ってゴミ箱を探してる浅黒い男
仕事帰りかエプロンのままでとぼとぼ歩くおばちゃん
イヤホンマイクで笑いながら電話してる可愛い女の子
関西弁で仕事の話をしているキャリアウーマンの二人組
銭湯帰りで湿気を帯びた垢抜けない青年
オシャレと馬力を兼ね備えた細っこいチャリを猛スピードで漕ぐ細っこい若者
奇抜な髪と衣装を身につけた奥さんと0時過ぎてるのに大声で話す旦那の老夫婦
テレビで見る姿より幾分かの人間らしさを醸す芸能人
チャリで駆けつけただろう警官たちと
少し離れたところでふてくされているこれまた浅黒い奴さん
ふくらはぎが水分でパンパンの7cmヒールのキャリア
目の前の電柱に驚く歩きスマホの美魔女系婦人
出す灰と煙に無頓着な歩きタバコをする恰幅のいい男
パンパンに詰まったどでかいトートバッグを持ちながら闊歩する気迫満点の大学生風
変わりそうな信号の青に関心を示さない細マッチョ
微妙な距離を取りながら歩く男女 公園で抱き合う男女
スマホで何かをチェックしてから駅へ向かって小走りを始めた白髪染めのせいで頭に艶を放つおじさん
通った救急車にチラリと目線をやるタトゥー盛りだくさんの男性
スーパーからマイバッグをさげて出てくる老婦人
店の前のガードレールにもたれて休憩する中華料理屋の店員

いっぱいすれ違って、全員歩いていた。歩く目的はうかがい知れないけれど、全員しっかり生きていた。当たり前だけど、ああ、それだけですごいなと。生きづらいとか言われる東京で、みんなすごいなと。私もその人たちの目に触れられる範囲に中に入ることができて、嬉しいと思った。私も、凄いってことじゃん?

自分から玉の汗が出てきたは久しぶりだった。なにせ散歩に選んだ服はおろしたてのユニクロのニューアライバルのネルシャツワンピースだから(これたぶん秋服ですよね、まだ早いですよねたぶん)。

凄いなあ、でも、浜松もきっと歩いている人、いっぱいいるんだろうなあ。母も、父も、今歩いていて、生きている。これまで私は、見たくなくて、見ていなかったんではないか。浜松という場所は、夢破れて感情を押し殺した上で来た、いわば墓場のように捉えていたから。

ちょっと、ほんのちょっと、母ちゃんと父ちゃんに会いたくなった。今日は夜散歩してね、楽しかったよ、明日は仕事で打合せ行くんだよ、朝起きられるか心配なんだよ、打合せの後は前から行きたかった餃子屋さん行ってみようかと思ってるんだ、プライムデーで買ったKindleがやっと届いてね、まじ紙みたいなんだよって、そう伝えたくなった。来る前、母に最近あいはミイラみたいだと言われたから、きっと心配されちゃうくらい引かれちゃうんだろうけど。

だからLINEするのは辞めた。そもそも帰宅した2時に送ったって翌朝「2時まで起きてたの?大変だね」って言われるだけなのも分かっているし。私も私で生きているんだけど。

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綺麗にならせてくれませんか

実家にいる時よりも3時間遅く寝たので、3時間遅く目覚ましをかけた。2時間早く起きた。

遅く起きた罪悪感がない。朝ごはんもない。昼ごはんもないし、干さなきゃいけない洗濯物もなかった。シャワーの水圧が強く、お湯が頭の上をかすめてゆく。洗面台の下にあったのをガメてきた小さい石鹸は足の臭いがした。まじで。ほんと。たぶん今も。

お昼はこもって仕事と決めていたので、する。持ってきた食べかけのコーンフロストをボロボロこぼしながら手で食らって、これは浜松の生活とあまり変わらない。

時間が浜松のそれと同じように過ぎていく。甲州街道と首都高が近くにあるはずだけど窓からは見えず、車の気配も霧ヶ峰の単なるモーター音に消されてしまっている。俯瞰で見たら、きっとぎゅうぎゅうに人が詰まっているのに、分からない。静かで不気味。不動産サイトの口コミでは閑静とあった。ここから全体を捉えようとするのは無茶だったけど、コントラストでかえって際立っているっぽい。トトロのススワタリみたいだと思った。高評価なんだか低評価なんだかよく分からんよ。

夜に友人とご飯を食べる約束をしていたので、シャワーを浴びる(今日2回目)。あがって乾かし中の髪を見ていたら、どいつもこいつもバカにしやがってという気分に至った。昨日の美容師も、エクセルシオールで会った同期も、愛想よく接して裏では笑うんだ。メイクするのが嫌になるが、降りたらまじで終わる。化粧ノリはここんとこ毎日悪かった。

出かける直前、リュックの下にポテロングを見つけてお腹いっぱい!お白湯も飲んで大満足。私はまだ旅行気分にあるのだと思った。三食食べても食べなくても、ポテロングを貪り食っても食わなくても、化粧ノリは悪いままなんだよね。

代田橋の沖縄タウンでシークワーサーサワーを飲む。
ジーマミー豆腐を食べる。
生スクの唐揚げを食べる。
ドゥル天を食べる。
スーチカーを食べる。
紅芋梅酒を飲む。
ソーキそばを食べる。

帰り、反対のホームにいた友人が電車を待つ私を写真に撮って送ってきた。そこの私は鏡で見る私より太っていて、綺麗じゃなかった。

なんか、私、間違っている気がする。大切なのはそこじゃないかも。バカにしているのは私のほうかも。

後、台風5号のいやらしい風が気持ち悪くて、食べ過ぎを反省しました。

東京、逃避行、初日

新幹線を品川で降りて、ウィークリーマンションへ向かう。歩きすぎて、踵は既に割れていた(体感)。

タオルと洗剤とハンガーはマンション最寄の100円ショップで買ったけど、やはり30Lのバックパックは送ればよかったなあ。

着いて買ったばかりのタオルを洗っている間、パフっとベッドに飛び込めば割れた踵のことなど忘れて、(あー!平和だ!)と浸る。実家のどこよりも、平和で落ち着いた場所かもしれん。仮住まいだけど。仮住まいなのに。

空間に自分が馴染みはじめてウトウトするも、服を手に入れねば着るもんないぞと思い出して、予約してた美容院の2時間前に出かける。そういえば浜松に来て4ヶ月、服は1着も買っていない。新宿ビックロでカーキ色のフランネルなシャツワンピースを見つけて買う。今の季節でも着ていいって、通りかかった店員さんが言ってたから(聞いた)。それだけ買うのにの8分並んだので、愛着倍増。早く着たい気持ち!

8分並んだのに美容院の時間にはちょっと空くので、そばのエクセルシオールへ寄った。コーヒーが好き、タバコを吸いたい(好きではない)、座りたい、そんなところで大学のゼミで一緒だった同期に偶然出会う。名前呼ばれて嬉しかったなあ、ゼミにはほぼ行っていないのに。覚えててくれたんだなあ。「ゼミのグループLINEに報告したよ〜」って、私それに入ってないんだなあ。そりゃそうだよなあ。

やっぱりなんとなく居づらくなって、出る。忙しい女感が醸せてスマートだと思った。背筋を伸ばして「会えて嬉しかった〜」と本音を言ってから時計を見たら、まだ美容院の時間には少しあった。くぅー、スマートじゃない!

ビックロと美容院の間をフラフラしながら時間が来るのを待つことにした。仕事で履けるヒール靴が欲しいとABCマートに入るも、私の存在自体がまるで無視されて非スマートに拍車がかかる。でもまあ、髪を直せば!なんとかなるでしょう!

前を歩く子がナンパに苛立っている時、後ろで私はいつのまにか曲がっていた背筋を伸ばして胸を張る。後ろにもいるよ!って風。まだまだ!美容院!美容院!

カラーと縮毛矯正で髪をいじめ抜くメニュー。髪を変えるだけでちょっと可愛くなれたけど、1000円カットのおばちゃんが切ってくれた前髪を「自分で切ったね?ガタガタだったから直したよ」って言われてムカついた。

そしてから、帰りがけに寄ったカフェのトイレで「毛先のクセは活かしましょうよ!」という自意識高い系美容師の提案を受け入れた私のボサボサ髪を見る。ただただ、びっくりした。それだけ。いや、ちょっと落ち込んだ。

カフェはこれまでに来たことがあったところだったけど、全面喫煙から全面禁煙に変わっていて、おお、東京オリンピック…と、いずれ来る自らの卒煙に想いを馳せる。想いを馳せるだけというのが、いささか意思弱女風。

カフェでは仕事して(いい仕事ができた!褒)、家族のこと、ぐねーっと考えて、すっかり夜半で急いで帰った(踵が粉砕されているのでたぶん低速)。

早速刺激が多くて、明日は何があるだろう。

東京で何を得て帰るだろう。

ワクワクしてて、少し怖い。

初日はそんな感じだった。

20170806

実家で暮らすのが嫌になった。

だから、ちょっと、10日間くらい、東京の、私の稼ぎではきっと住めない場所にウィークリーマンションを借りて、暮らすことにした。

逃避行といえば夏らしくって粋なのだけど、逃げるだけです。

見ないふりできなくなった自意識
かといってはっきりしない
縛られている感じがして
監視されてる感じがして
我慢ならなくなって振り返ると目線を逸らされて
私以外のせいにすれば楽でした
善意がイヤらしい
9年の一人暮らしで蓄えたわがままですか
私は一体何に苦しんでいるのですか

家族というものが分からなくなったと母親に言ったら、最近眠れないのも食べられないのも私たちのせいなのかと思っていたんだと泣きながら、一人になって考えてみなよと返された。この時母親は、考えすぎる私の欠点を、まるっと受け止めた。明け方二人で泣いて、遠くで父親がテレビの電源を入れた音が聞こえたんだ。ああ、父ちゃんってこんな早く起きるんだなって。

逃げる先が東京というのも、いささか語彙なし女風。

今は、青ネギを切った包丁を上向きに持ち替えることをしなかった自分が、ただ新幹線に乗っているだけだ。