急がば回りこんでドロップキック

後藤あいといいます。

ベンツを買った友達と私

土曜日の夕方にコナンを楽しく鑑賞していたら、同じ学年で同じ学部で同じサークルだった大学時代の友人から3年振りくらいに電話がかかってきた。

「車買ってさー、近くまで来たから何してるかなと思って。」

ちょっと嫌な予感がしたのだけど、住所を教えたら5分で着くわとのこと。
鏡を見ると、お昼下がりにお高めのスーパーでコロッケを買いに行った時にちゃちゃちゃーっとした化粧がすっかり取れかけていることが分かる。土曜の夕方ってそんなものだ。

シェーディングもすっかり取れてしまった面長の顔を更に伸ばしてぼーっとコナンを見ていた私。ユニクロのブラトップ1枚と超ショートパンツ。急いだところで、カーディガンを羽織って、超ショートパンツをショートパンツに変えるくらいしか出来なかった。朝の5分は宝と言われるけど、だとしたら夕方の5分は尿だ。クズよりも存在価値があって、糞より刹那的。だから尿。

いかついベンツでやってきた彼は、おそらくこのベンツを自慢したかっただけなんだと思う。悪気なく朗らかに、購入までの道のりを私に話してくれたから多分。彼の性格をあらかじめ心得ていたことが幸いしてか不愉快ではなかったけれど、いよいよ取り残されたことが明白になった気がして、ハラワタが握りつぶされて消えた。

大学生の頃から彼は、何をするにもストイックで、自信家だった。ベースのスラップがとっても上手で、リップクリーム入るんじゃないかくらいの穴を耳に開けて、女の子食いまくって、それでいてちゃっかり成績優秀って学費援助してもらっていた。その後、兜町を牽引する大きい会社に就職したのは私と違う。でも、毎日朝まで一緒に人狼ゲームして、バンドも組んで、楽しいも辛いも一緒に経験した仲じゃないか!どこから違う?え?

挙句、太ったくせに貧乳になったねと七不思議つかれて(しかし本当に不思議)一応化粧してるのに、顔どうした?とか言われる。私は私で、すっぴんだからね。と嘘つく他ないわ。彼の顔を見られなかった理由は、恥ずかしさ以外にない。まじ生き地獄だって。ドライブの途中、煙草を1本ねだられ、あげた。ホストに貢ぐブスな女の気持ちが少し分かったような気がしてぞわっとした。

なんとなく分かってはいたんだ。卒業してからしばらくして、他の仲の良かった友人にふらっと電話を掛けたら「誰ですか」って言われたし、Facebookの友達も極端に少ない。近所に住んでいる友達たちは、私を誘うことなしに頻繁に集まってはダーツに勤しんでるみたいだし。

車を降りて、息も絶え絶えに家に帰る。コナンはとうに終わってた。
ぐるぐる考えて、結果私に残ったのは、至極小学生的に「あー、私もがんばろう」だった。

持ち物で人の価値が計れるとは思わない。ただ、その持ち物に見合っていた彼に、その彼こそに、劣等感を感じていたようだった。彼を待っていたあの5分間に、5kg痩せて、巨乳と毛穴レスな素肌と、サラサラの髪と口を隠して笑う女子力と、きらきらした夢と大人の余裕と適度な楽観主義が持てたらこんな気持ちにならずに済んだろうに。

私は知らぬ間に私自身を、目で見えるものだけで判断するなんてダサいという精神で隠していたらしい。生き様って、割と目の端で感じられたりするものだしなあ。オーラっていうのかな。そう思うと、ベンツに爪立ててやるとか、自暴自棄になって篭るような性格(精神状態?)じゃなくて良かった。そうならもっとブスだった。良かった。

彼は、血を吐くくらい努力をして生きている。あのベンツはその結果、彼から生まれたものだ。あの恥ずかしい気持ちは、ベンツを持っていないことに対してでなく、私が私の望む姿になれていない、ひよっとすると、それに近づこうともしていないことに対してだったのやも。そもそも私、免許持ってない。

持ち物変えたら、気持ちが変わることもあるし、とりあえずかわいい部屋着を買いに行くことにする。

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